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人間の「本質」と「しがらみ」が見えるかな?
高校から大学へ、エスカレーター式に続く女子学園に在学している一人の少女がいる。彼女の名前は、森カオル。高校卒業後の進路決定を迫られ、毎日、悩み抜く日々が続いている。そこへ現れた“教生”(教育実習生)の伊集院大介。年齢的に近いこともあって、カオルは彼に相談を持ちかけることにした。
『私、ダメだと思うんです。受験の荒波にもまれもせず、このまま何となくのんぴりしたムードで、上に続く女子大に進学するのは・・・・。それじゃ、まるで世間知らずでしょう。外に行きたい。何でもいいから、ともかく外の世界を見たい、知りたい。でも、両親ったら、こんな私を、そもそもそれが世間知らずだって叱るんです。どこへ行っても、どんな道に進もうとも、そんなに甘いもんじゃない。何となく違う環境、他の世界がステキに見えるのが人間だけど、だからといって、そこに飛びこ込んだからって、また同じようなことを思うに決まってる。それよりも、今をもっと大切に・・・ってね。』
これを聞いた大介は、返事になるかどうかと言いながらも、こんな話しをする。
『別に、世間っていうところがあって、そこへ出かけないと世間がない、というわけじゃないでしょ。世間なんてね、人間が2人以上いたら、そこにば必ずあると思っていいですよ。ほんとに世間知らずなのは、家族の顔しか見ていない子供だとか奥サンとか、だけですよ。いや、子供には子供の世間があるか・・・。
あのね、僕、思うけど、この学園の中だって、りっぱに世間ですよ。だって、これだけたくさんの先生たちと、いろんな生徒たちと、毎日毎日、顔をつきあわしているわけでしょう。そうすれば、いやでも、みんなそれぞれ一人一人に、実にさまざまな愛憎とか、希望とか、悩み、苦しみ、将来の計画、うまくいかなかったこととか、何て言うのかな・・・しがらみ、とか、生きてることの煩雑さみたいなものが、あることがわかってくると思うのね。世間って、結局それでしょう。人がみんな、うしろに長いものを引きずってて、それをたぐり寄せたり、もつれを解こうとしたり、あがきながら、何とか自分のいる場所をつくってる・・・という、そういうことでしょう。』
これを聞いていたカオルは、大部分では納得しながらも、どうもゴマかされたような気がして、「みんな、そんなものは引きずっていないような顔をしている」、「人のいるところでは、全然、そんなふうに見えない」と、率直に疑問をぶつける。それに対して、大介が続けて、こう話す。
『僕は、いつも、人っていうのは、ふわふわした綿やきれいな布や、ときには鎧をつけて、そのうしろに、まるい、固い本質と、そして、もつれてからまった、しっぽみたいなしがらみを隠してるものだと思う。そして、人って、いつもそのふわふわした綿やきれいな布で、自分を見てもらいたがるでしょ。でも、僕の心を引くのは、いつも、そういうものを取りのけると、ダイヤモンドか出てくるのか、それとも石炭が出てくるのか・・・ってことなんです。』
さて、ずいぶん長い引用になってしまいましたが、以前も取り上げた、栗本薫の『優しい密室』という作品の、最初から四分の一ほど読み進んだところに出てくる場面を抜き出してみました。
この中に出てくる受験を控えたカオルの環境と、今のみなさんの立場は全く違うし、文面をそのまま当てはめてもらおうとは思いませんが、言おうとしている中身・・・すなわち、学校という「世間」における、みなさん一人一人の生きざま、あるいは関わり合いといったことについて、何か感じるものはないでしょうか。
特に、後半の部分に出てくる、“人間の本質”の話。ふだんは“しがらみ”なんて引きずっていないかのように、明るく振る舞っている人にも、その裏には必ず、その人なりの悩みがあるということ。また、人は“飾った自分”で相手と接していきたいと思っているということ。それらのことを思うと、人を表面だけで判断してはいけない、相手の気持ちや心、内面までも含めて尊重し、接していかなければならないといったようなことが、ひしひしと伝わってきます。
入学して、2ヶ月以上が過ぎた高校生活。ホームルームやクラブで、いろんな友人や先輩との関係が幾重にもつくられてきています。そして、日々、それが複雑に絡まり合う中、少しずつ広がったり深まったりしています。そんな人間関係を、自分を含めた集団の成長にどれだけ生かしていけるのでしょうか。
残念ながら、今のみなさんの関わり方では、それはあまり期待できません。言われた言葉の表面だけをとらえて一喜一憂したり、その場さえ良ければいいという考えで物事を判断しているようでは無理です。それは、自分に自信がない証拠。弱い自分を慰めようとしている自己弁護の感情に過ぎません。物事を狭い視野から、自分中心に見るのではなく、相手の気持ちも含めて、もっと幅広く、客観的に見るようにしていってほしいものです。

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